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自然界の虫の世界あれこれ

 誰でも男の子ならば、カブトムシやクワガタムシのような昆虫が好きだろうと思う。

 今は自然が開発され、里山も少なくなり、害虫駆除に消毒液をつかうために、河川が汚染されてしまい、なかなか昔のように昆虫を見かけることが少ないだろう。

 かつては、虫は至る所にいて、家にはクモやハエ、蚊、蛾、ゴキブリ、コオロギ、その他の虫が生息していた。

 玄関を出れば、アリが群がり、それを避けながら歩くのも大変だった。

 雨の日の後には、地中から飛び出したミミズが太陽の日を浴びてうごめいていたというのはふつうの風景だった。

 当時は道もあまり舗装されていなかったので、ミミズもしばらくゴロゴロと転がっていると、土の中に帰っていくことができたが、現在では舗装されているので、路上で干からびていくしかない。

 死んだミミズを掃除するアリもいないので、いつまでも路上に張り付いてミイラのようになってさえいる。

 歩いていると、頭上にはトンボやチョウチョが飛び、セミがときどき、グライダーのように滑走していた。

 今はそんな光景はほとんど見かけない。

 もちろん、ずっと郊外の自然の豊かな地域や山奥などであれば、まだこうした生き物たちは元気で生息しているだろう。

 だが、それは都会生活者にとってはなかなか体験できない。

 今の子供たちは、自然の中で昆虫採集をすることさえまれではないか。

 カブトムシだって、デパートなどで買うしかない。

 そんな子供たちが幸福であるか、不幸であるか、という判断は難しい。

 不幸であるというのは簡単だが、近代化というのは、そうした自然破壊を肯定しながら発展してきたことも間違いない。

 快適な生活をするために様々な開発をしてきたのが人間であり、それは自然の領域を減らし、宅地を増やすことにつながるからだ。

 都会に自然が少なくなったのは、考えてみれば当たり前の結果なのである。

 そうした事態をどうにかして変えようと思えば、都会生活を捨て田舎暮らしを選ぶしかないのだが、それは親子の生き方や経済、家族の問題なので、なかなか難しい。

 田舎に住んでも、その不便さや人間関係に音を上げて都会に戻ってしまうケースも少なくない。

 その意味では、都会で自然に親しむというのは不可能に近いといっていいだろう。

 かつて昆虫少年だった私は、地方都市から母方の実家へ夏休みなどは帰省して、朝早く起きてクヌギ林などに出かけてカブトムシやクワガタムシを採集していた。

 林や河原、山などを散策しながら、虫を探すというのは、ケガをしたりすることも多い。

 実際、ヘビには何度も遭遇したし、一度などは自転車の車輪にからまって、鎌首をもたげたヘビにびっくりして、自転車から転げ落ちたこともある。

 ハチに襲われたこともある。

 よくスズメバチの被害が報道されるが、私の場合、スズメバチよりも頭上を低空飛行するクマバチの方がその轟音ともいうべき羽音の威嚇の方が恐ろしかったことを今でも強く覚えている。

 しかし、振り返ってみると、こうした体験はかなり貴重な体験だったと思う。

 その後、昆虫採集熱が冷めてしまったが、それでも、昆虫の図鑑や「ファーブル昆虫記」などを愛読していた時期があった。

 「ファーブル昆虫記」で印象的なのは、虫を狩るハチの生態を観察した部分。

 ハチがクモやイモムシを子供のエサにするために狩って、地中などの巣穴に引き込み、そこに卵を産むという記述は、神秘的な印象だったので、よく覚えている。

 その狩りを見たいと思っていたが、なかなか見ることができなかった。

 しかし、思い出せば、狩りを終えて、イモムシやクモを引きずっていくところは見たことがある。

 ある日、従兄弟とともに、近所の庭を歩いていたとき、頭上でパチッという小さな音が連続して聞こえた。

 私は何だろうと思ったが、一緒にいた従兄弟が叫んだ。

 「また、ハチのやつがやっている」

 「え?」

 それでもわからない。

 と、突然、ボトッと何かが落ちてきた。

 見ると、ハチが自分よりも大きなクモの脚を噛んで引きずっていた。

 従兄弟によれば、好戦的なハチがよくクモの巣に鎮座したクモを襲い、尾の針で刺して地面に落とすのだという。

 時にはハチが負けて白い糸でグルグル巻きにされてクモの餌食になることもあると言っていた。

 従兄弟はそんな狩りの姿を何度か目撃していたらしい。

 私の方は、その時には、ハチが何のために命がけでクモに戦いを挑むのかわからなかった。

 もっと捕まえやすい昆虫がいるのに、なぜクモを相手にするのだろうか。

 その時にはわからなかったが、のちに「ファーブル昆虫記」を読んで、クモをマヒさせて子供の食糧にするために狩るのが理解できた。

 その後は、ハチの狩りに遭遇することはなかったが、ハチが作った巣穴を偶然発見したことがあった。

 公園の土手で、何気なく土を掘っていたら、中から緑色の太ったイモムシが出てきたので驚いた。

 なぜこんな地中にイモムシがいるのか。

 しかも、指でつつくと、いやがってクネクネと蠕動をする。

 まさに、ハチが狩りをして捕まえ、マヒしたイモムシを子供のエサとして貯蔵していたというわけである。

 この発見も今から考えると貴重な体験だったと思う。

 ただ残念だったのは、観察する前に気持ち悪いので、すぐに埋め戻してしまったことである。

 などなど、昆虫の話を綴ってきたのは、実は、最近、道で珍しい遭遇をしたからである。

 森や林の中ではなく、都会の郊外にある小学校の運動場に沿った舗装路で、何かが争っていた。

 見ると、薄緑のまだ若いカマキリが何かをつかまえて戦っている。

 近づくと、スズメバチを押さえつけているように見えた。

 だが、スズメバチも元気で反撃している。

 しばらく見ていると、なんとカマキリの右の鎌が関節あたりでポロリと取れた。

 スズメバチはしばらくその鎌の手をなぶりながら、その後、それをくわえて飛び立っていった。

 カマキリではなく、スズメバチが狩りをしてたのだ。

 カマキリの方は鎌は片方だけになってしまったが、そのまま呆然と立ち尽くしていた。

 その後、カマキリがどうなったのかはわからない。

 (フリーライター・福嶋由紀夫)

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