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孔子の文学観 古代人の詩歌・詩経を重視したこと

koushi

 

孔子というと、論語に見られるように政治や道徳な生活を語り、どこかというと、堅苦しいイメージがある。男女の道などを語るということはほとんどしない道学者のような印象といっていいだろうか。
テレビや時代劇を見ると、江戸時代の寺子屋でヒゲをはやしたいかめしい先生が、「子のたまわく」などとやっている風景である。
親に孝行しなさい、といった教えと思っている人も多いのではないか。倫理的な教え一方で、やわらかい文学などは全否定してしまうような存在。
たとえば、学校教育の修身の時間などを思い浮かべてしまう。男女の問題については、論語に、色を好むようにそれ以上に学問を好む者はいないと嘆いた言葉があるが、これなども男女の道を否定したようなニュアンスを感じさせるものがある。
第一、孔子自体の私生活自体があまりよく知られていない。論語には、もちろん弟子たちとの対話は出てくるが、家庭の話や子供の話などはほとんど出てこない。孔子は4大聖人の一人だが、他にもイエス、釈迦(出家以前は妻帯していた)も、家族の話はほとんど出てこない。
マホメットは妻帯していたことはよく知られているが、それにしても、孔子は家族を持っていなかったのか、それとも家族を表に出すことを嫌ったのか、政治や修身の話には女子は相手にしなかったのか、などと思いをめぐらしてもなかなかわからない。ただ、弟子集団は、妻帯していただろうから、孔子もその可能性はあっただろう。
孔子自身の出自は、漢字研究の権威・白川静博士によれば、正式の結婚ではなく野合で生まれたとしている。要するに妾(めかけ)の子だったということである。こうした出自をしている場合、それが原因となっているせいか、正統性ということに強くこだわる傾向がある。
日本では時代劇のヒーローである水戸黄門も、次男の生まれなのに兄をさておき水戸藩主となったために、正統性ということにこだわり、兄の子供を跡継ぎにし、日本の歴史の正統性を皇室に置く歴史書大日本史編纂事業に着手した。
また、中国の王朝の歴史などでも、後継者争いで正統な跡継ぎではない者が皇帝になると、自分が正統な王者であることを示すための事業を行った。明の名君と言われた永楽帝も、正統な後継者から政権を簒奪したという負い目のためか最大の国力を誇り善政を布いた。
孔子もそのような自分の出自であったために、正統性にこだわり歌舞音曲に見向きもしなかったのだろうか。などと思うのはもちろん、誤解であって、孔子は詩歌を愛したことは、その事績に、文学(詩歌)の詩経の編纂をしたことでも理解できる。
詩経とは、儒教の聖典の一つで、古代の人々の歌謡を集めて孔子が改めて、自分の目にかなう詩約300編をまとめたものである。その意味では、庶民の生活感情や風景、民俗などの日常生活が歌われている。男女の愛も入っているし、労働歌や遊びも含まれている。
そんなありふれた詩歌をなぜ孔子は重要視したのか。おそらくそこに孔子当時の人々からは失われてしまった人間の基本的な生活、理想的な人情というものを見出したからだろう。
要するに聖人の時代の人々の姿を表した文学、それこそ詩に表れていると考えて、儒教という政治的な哲学の中に採用して、その理想の実体を示そうとしたということ。孔子は、教えを説くだけでは不十分で、人々の生活感情を重視し、そこでどのような感情が理想的であるかを詩経を通して教えようとしたのかもしれない。
その意味では、孔子は単なる政治指導者の教師ではなく、人間という総合的な存在の教師として、生きることの意味と国家や世界の行く末までも見通したということが出来よう。
その孔子は、詩経について、「詩三百、一言以て之を蔽(おほ)へば、曰く思ひ邪(よこしま)無し」と述べている。庶民感情を歌ったものであれば、そこには土俗的で卑猥(ひわい)なもの、卑俗なものが含まれていることは言うまでもない。
そうした野卑とも言える歌も含めて、孔子はそう言ったのであろうか。つまりシモネタも肯定したのか、と勘ぐりたくなるが、これはゲスの勘ぐりというものだろう。
古代は、人情がすれていないだろうし(都市国家でおおよそ農村が大部分を占めていた時代なので、古き良き風俗が残されていた)、現代のような複雑怪奇な事件、性風俗の氾濫ということもなかっただろう。
そのような時代、人々は素朴で、人間本来の欲望を自由に発散し、それがある程度の規矩(きく)を超えない調和した感情生活だったという気がする。
その点では、孔子は人間の本来の欲望、愛や遊びも理想的な世界では自由に喜怒哀楽を表現していたと見て、文学をそうしたものが昇華したものと考えていたのだろうと思う。
(フリーライター・福嶋由紀夫)


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