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万葉集のブームは来るか?


 このほど、「平成」から「令和」に改元されることが発表され、その典拠になったのが国書の「万葉集」からのものとのことで、にわかに万葉集がスポットライトを浴びているようだ。

 万葉集を発行している出版社では、問い合わせが相次ぎ、この万葉集ブーム?の到来を歓迎し、急遽、従来の本を重版を決定した。図書館でも、このブームに備えて、万葉集のコーナーを設けたところもあるというほど。

 私の知人でも、さっそく万葉集にチャレンジしたつわものがいたらしく、冒頭の雄略天皇の御製(天皇の和歌は特別に「御製(ぎょせい)」と呼ぶ)とされているものを読み上げ、

 「籠(こ)もよ み籠(こ)持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串(ぶくし)持ち この岡に 菜摘ます子 家聞かな 名告(のら)さね~(略)」

 「これはなんじゃあ。ナンパの歌じゃないか」などと叫んでいたので、思わず笑ってしまった。

 要するに、この御製の解釈は、雄略天皇が野で菜を摘んでいる乙女に、名前を名乗りなさい、私はこの大和の王であるぞ、と宣言したものとされている。

 確かに、表面的には、ナンパ(求婚)といっていいのだが、その裏には、この乙女の氏族(おそらくこの地方を支配している豪族)を従えるという意味、それこそ土地と豪族を支配するという呪術的な和歌なのである。

 この野で菜を摘む乙女は、豪族の娘、あるいは巫女のような立場で、天皇に見初められ、その後宮(采女)に入ることで、大和に服属するという服属儀礼的な意味を持っている。

 昔は服属する印として、何かその氏族・部族の大切なものを差し出したものだが、それは主に神宝と呼ばれるものや氏族の王の娘や親族を捧げることも含まれていた。ある意味では、人質であり生贄(いけにえ。人身御供)といった性質があった。

 現代でいえば、文化や政治・外交・経済などの主導権を奪うことが植民地という支配下を意味しているが、古代ではそれがその氏族の守り神であり先祖の霊であり、それを祭っている立場の巫女だった。

 作家の宮城谷昌光の古代中国を舞台にした小説を読むと、征服戦争とは人民の拘束というよりも、その民族が祭っている社稷の占領であると記している。要するに、その氏族の神を占領することが重要で、それを奪われた氏族は途端に力を失ってしまう(戦闘意欲がなくなり降伏する)ということを指摘していた。

 ある意味では、古代の戦争は神々の戦争であるといっていいが、雄略天皇の御製も、そのような支配の宣言と見ていいのである。

 このことが分からないと、古代の戦争のが武器での戦闘である同時に、相手の神の力をそぎ、呪うための呪術の戦争であることが分からない。戦争には、基本的に呪術師が同伴され、まず最初の戦闘の前に、互いに言葉(言霊)による戦争が互いの呪術師によって戦われるのである。

 源平の合戦に、戦闘をする前に「われこそは~」と名乗りを上げる作法があるが、これもまた古代の呪術戦争の名残と言えなくもない。

 ただ、万葉集のこの冒頭の和歌(御製)は、雄略天皇の名を借りたものであって、実際には雄略天皇の作ではないという説もある。当時は、現代のような著作権などというものがなかったこともあるが、和歌などは個人主義的な芸術意識よりも、集団の無意識を象徴して作られた。和歌が神と人を巫女のように仲立ちをする、集団歌謡的なものであったということがあるといっていい。

 大和朝廷の成立と繁栄を寿ぐ万葉集の冒頭に置かれた和歌は、それが雄略天皇の事績に結びつけられ、この天皇ならば地上世界の支配と言霊(霊界)の世界の両者を支配するにふさわしい大王であるという、共通認識が古代の人々にあったからだろう。

 万葉集はその意味で、意図的に編纂された歌集である。ただ、国民の中から優れた和歌をコンクールのように集めたものではない。

 編者としては歌人の天皇家の重臣とも言うべき大伴氏(この大伴は天孫降臨以来従ってきたという「伴う」から来ている)大伴家持(やかもち)が挙げられているが、和歌が生まれた時系列ではない配置の構成は、明らかに、大和朝廷の現実的な土地(領土)支配とそれを精神的に補完するための歌謡(言葉による霊的支配)の宣言を、武勇にすぐれた雄略天皇の名を借りて宣言したものという、一種の人民教化といった面があることは間違いない。

 とはいえ、万葉集はそのような意図で編纂されているとはいえ、多くの人々の声を集めていること、そこには当時の人々の喜怒哀楽、精神が表された稀有な歌集であることも否定できない。

 その点で、「令和」という元号が、どのような霊的背景を持ち、今後の日本をどのような未来へ導いていくのか、はなはだ興味深いものがある。  

(フリーライター・福嶋由紀夫)


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