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『二十一世紀の朝鮮通信使』 総論III


◆朝鮮人の日本認識を変えた通信使

朝鮮では、日本認識を変える上で、通信使行員たちからの伝聞や、彼らの残した日本使行録などが効果的だった。それを役立てたのは一部の知識人(実学者)で、彼らは感情的な敵愾心や華夷観から脱皮して日本を見詰め直し、文化的に発展する日本に対する関心を深め、多数の著作を残した。
例えば、李翼(1681 ~ 1763)。朝鮮王朝において、当時の朝鮮知識人の日本への無関心や固定観念から脱して、日本の幅広い分野に関心を持ち、日本社会の実相や変化に注意した。日本の技術の優秀さを認め、立ち遅れている朝鮮の技術を批判した。また、日本の武器の製造技術が進んでいることを評価した。朝鮮の技術が衰退したのは、技術を軽蔑する意識と制度のお粗末さからだと指摘する。通信使行をさらに活発化させ、3年に1回ずつという定期的な相互訪問、日本の使臣に対する接待を対日通信使の場合と同様に釜山の倭館、でなければ漢城(現、ソウル)で行うことを主張した。

18世紀後半、日本は文化文政期の繁栄に象徴されるように、文化、商工業が発達し、朝鮮通信使の一行も、驚きを隠せないほどであった。1764年に来日した通信使・正使の趙曮は救荒作物サツマイモを朝鮮に持ち帰って広めたことで知られる。さらに彼は水車、舟橋、白、堤防工事など日本の優れた技術を習おうとした。朝鮮の実学者も、これに同調した。

◆対馬藩の外交官、雨森芳洲

雨森芳洲(あめのもり・ほうしゅう、1668 ~ 1755)は、対朝鮮外交で活躍した対馬藩の外交官で、朝鮮との「誠信交隣」、現代の言葉でいえば「誠信の交わり」という言葉を残した。芳洲が広く知られるきっかけは、1990年に来日した韓国の盧泰愚大統領が、宮中晩餐会の答礼で行った雨森芳洲を称える演説だった。

芳洲の出生地、滋賀県高月町(現、長浜市)のまち起こしは活気づき、対馬でも芳
洲を顕彰する運動が盛んとなり、対馬が提唱する朝鮮通信使ゆかりのまちを繋ぐ縁地連絡協議会結成(1995年)へと動いていった。このように盧泰愚大統領演説は、大きな波動となった。

雨森芳洲は、寛文8(1668)年、雨森村の医者の家に生まれた。初めは医者を志し、伊勢で修業したが、能筆家が紙を仕損じるように、医者は一人前になるために人の命を粗末にしてしまうことは仕方がない、といった話を聞き、儒学へと転向。17歳のとき、江戸に出て木下順庵の門下に入った。順庵の門は多くの有能な人材を輩出した。
なかでも6代将軍、家宣の指南役になった新井白石らとともに、芳洲は「木門五先生」の一人に数えられている。芳洲 22歳のとき、順庵の薦めで、対馬藩に出仕した。ときの対馬藩主は宗義真。対馬が政治的にも、文化的にも最も栄えた時期だった。

芳洲 31歳から外交実務を担当する朝鮮方佐役の就き、数々の業績をあげていく。当時、対朝鮮外交は「筆談外交」だったが、それを芳洲は「ことばを知らで如何に善隣ずや」と言って、釜山で3年間留学し、朝鮮のことばを習得するために学んだ。
44歳(1711 年)と 51歳(1719年)のとき、朝鮮通信使の真文役として、対馬から江戸までの往復の旅に随行した。晩年になっても向学心は衰えず、1万首の和歌づくりを目指し、「古今和歌集」1千遍詠みを2年かけて終え、88歳の生涯を終えるまで和歌2万首を詠んでいる。

江戸末期、中川延良が書いた『楽郊紀聞』によると、芳洲の辞世の句は

油尽きともし火消ゆる時迄も忘れぬものは大学の道

墓は対馬・厳原町の長寿院にある。

雨森芳洲の著作の仲で、最も評価されているのは、『交隣提醒』であろう。61歳のとき、対馬藩主に対朝鮮外交の心構えを説いたものである。その中に、今日にも通じる、次のような言葉がある。

「互いに欺かず争わず真実を以て交わり候を誠信とは申し候」

意味するところは、互いに「欺かず争わず」「誠信」の基本精神にたって、交際・交流を行わなければならない、行き詰ってしまうということである。
長年、朝鮮外交にかかわった体験から、自ずとにじみ出た芳洲の言葉である。この誠信の交わりは、“日韓の懸け橋”として交流を進める上で、大切な基本理念といえる。21世紀の朝鮮通信使を目指す上で、忘れてはならないキーワードは、「誠信」の二文字である。

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【転載】『二十一世紀の朝鮮通信使』(朝鮮通信使と共に 福岡の会 編) 

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