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黄七福自叙伝「朴大統領が側近に暗殺されたこと」


 

黄七福自叙伝65

「ああ祖国よ 我れ平壌で叫ぶ時 祖国は統一」

 

第5章 在日同胞の将来を考えつつ

朴大統領が側近に暗殺されたこと

私が民団大阪本部の団長を退任したその年(一九七九)の十月、朴正熙大統領は側近の一人である中央情報部長に射殺されるという驚愕すべき事件が起きた。

その報せを受けたとき、国際空港を造るということで、仁川の海を埋め立てる工事が始まった頃で、現代建設が請け負っていた。

その工事を朴大統領が視察に行くということを聞いていたから、そのときの事故かと思った。総領事館に電話をして確かめると、そうではなく、大変な騒ぎになっていた。

一〇・二六事件といわれるその事件は、朴正熙大統領がソウル特別市鍾路区宮井洞の中央情報部(KCIA)所有の建物内で、金載圭中央情報部長に射撃され、朴大統領と車智澈大統領府警護室長など七名が死亡、金部長など五名が絞首刑、一名が銃殺刑となった。

大統領警護室というのは、朴正熙政権下で創設され、当時の朴鐘圭少佐を中心とした「軍警護隊」がそれにかかわった。

当初は中央情報部に属していたが、第三共和国(一九六三~一九七二年)がスタートするとともに独立機関となり、室長に朴鐘圭が就任した。

陸英修大統領夫人が死亡した文世光事件の責任をとって朴鍾圭が辞任し、後任には車智澈が就任した。朴鍾圭は中央情報部長に就任した。

犯人の金載圭は朴大統領の古い友人だったが、学生運動の弾圧が生ぬるいとして無能をしばしば叱責され、ライバル関係にある車智澈警護室長からも攻撃を受けていた。

十月二十六日、中央情報部所属の秘密宴会場で朴大統領らと晩餐をともにした際、反政府学生らが釜山の米国文化館を占拠した事件について朴大統領が責任を追及した。

車智澈室長が批判を加えて来ると、金載圭は晩餐会場から出て直属部下の朴興柱、朴善浩に銃声がすれば控え室の警護員を射殺するよう指示した。

晩餐会場に戻ると、金載圭は朴大統領と車智澈にそれぞれ二発撃ち、銃声を聞いた朴善浩らは大統領府警護員らを射殺した。

晩餐会場には大統領府秘書室長金桂元や女性ホステス(有名歌手と女子大生)もいたが、無事だった。

間もなく金載圭らは現場を脱出したが、緊急国務会議で逮捕令が出され、二十七日深夜に大統領殺害犯として逮捕された。

その直後に全国に非常戒厳令が敷かれ、陸軍参謀総長鄭昇和大将が戒厳司令官に就任した。

捜査は戒厳司令部合同捜査本部長に就任した保安司令官全斗煥少将によって進められ、金載圭とその部下らに死刑が宣告された。

金載圭は一九八〇年五月二十四日に絞首刑が執行され、朴善浩(儀典課長)、金泰元(警備員)、李基柱(警備員)、柳成玉(運転士)らも絞首刑、朴興柱(部長随行秘書官)は銃殺刑となった。

その後の取調べで、金載圭の殺害動機は車室長に対する不満が大きな原因であったことがわかった。

一方、韓国政府は極秘裏に核兵器開発計画を進めており、米国政府の怒りを買っていたため、暗殺はCIA(米国中央情報部)がそそのかしたとする見方もあった。

真相は明らかではなく、ただ、朴大統領の暗殺によって韓国の核兵器開発計画が挫折したことは確かであった。

私の聞いた話では、人に人の垣根を造ったのが一番の原因だということだった。

車警護室長が横暴で、書類があがると、車室長の線で、都合の悪いのはみなブロックされて、大統領の目には止まらなくなっていた。金載圭がカッカッとなる実情だった。

金鍾泌の嫁が朴大統領の兄の娘で、韓炳起の嫁は朴大統領の娘だったから、金鍾泌と韓炳起は”いとこ”」という関係にあった。

そこで、朴大統領の娘婿で、カナダ大使の韓炳起を情報部次長に入れようとする人事が内定していた。

それによって、朴大統領との風通しをよくし、車室長の横暴を牽制しようとする狙いだった。しかし、その人事が実行される前に事件がおきた。

朴大統領の葬儀が済んだ翌日、李熙健と韓禄春と私は、朴大統領の実家に行って、一日中、朴大統領を弔い、家族らの労をいたわった。

実家は質素のものだったが、全斗煥が大統領になって、立派に建て替えたという話だった。

いずれにしても、歴史の冷厳な摂理からすれば、朴大統領個人の宿命ともいえようし、大韓民国の運営における大きな変化の時期であり、その時代は終るべくおわったともいえよう。

その事件以後、日本の右翼は韓国を激しく批判した。というのも、朴大統領は反共の世界で指導者であり、日本の右翼もかなり傾倒していて、落胆も大きかったからだ。


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