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先祖を祀るお墓の話


 先日、故郷の両親の墓参りをした時、墓の周辺に雑草が伸び放題に生えていた。草をむしりながら、普通の場所よりも、墓の周辺の方が草の茂り、生命力が強いと感じた。
 なぜかその草に先祖の魂や思いといったものを感じて、不思議な思いになったことを覚えている。
 最近、テレビの報道で、お墓の墓石の捨て場所の話になって、放置され不法投棄されていることや捨てられる墓石の供養をし捨て場所を提供している寺院の話が紹介されていた。
 それを見て、墓石が捨てられて廃棄されている現実に衝撃を受けた。墓石はずっとお寺や霊園に置かれているものと思っていたが、そうではないこと、墓参りもされずに放置された無縁仏のような墓石の処分がなされていることを知ったためである。
 確かに、戦後日本は核家族になって都会に出た家族と故郷に住む親族との関係が希薄になり、親の代では墓参りをかろうじて一年に数回していても、子の世代になって、めったに墓参りをしなくなり放置されているという現実があることにはある。
 そのために、近辺で墓参りが出来るようにと、東京などの周辺には霊園などが増え、また骨壷だけを安置するところやバーチャルなお寺の出現など、墓事情も多様化している。
 しかも、日本は超高齢化社会に突入し、高齢者の割合が増え、多くの人が老老介護や同じ世代の人々の訃報を耳にしている人は多いだろうと思う。そうであれば、死者のためのお墓は増えこそすれ、減ることはない。
 そのままにしておけば、墓石で寺院や霊園は埋まってしまうだろう。処分を考えなければならないのは、ある意味で仕方がないことかもしれない。
 歴史学者の磯田道史氏の『日本史の探偵手帳』(文春文庫)によれば、日本人が墓石をもつようになったのは、近世、江戸時代からで、それ以前は木製の卒塔婆(そとうば)で、そのために時間をすぎれば朽ち果て、自然に忘れ去られるようになっていたという。
 墓が木製から石になったのは、「家意識」というものが強くなり、子孫が家系を意識し、子孫繁栄を願った江戸時代の家制度から来ているとも指摘している。
 確かに、古代の時代には、平城京だったかを建設するときに、その土地にあった多くの古墳を処理しなければならなかったのだが、たかだか百年ぐらいで、もはや被葬者がわからなくなっていたという記録がある。
 その土地にまだ大きな古墳があるから、あるいはお墓があるからといって、ずっと子孫が祀って来ていたわけではないのである。
 もちろん、子孫が絶えてしまって墓が守られてこなかったのか、政治的に敗者となってしまって祀ることができなくなったのか、それはわからない。
 ただ、死後に石のお墓を立てると習俗がずっと日本の伝統文化のものではなく、近世からのものであったという点は記憶されていていいだろう。
 もちろん、これはお墓を軽視しているのではなく、それを祀るべき人間の意識が変化しているということ、要するに現代人の宗教意識、彼岸世界というものに対しての信仰観が変わったということである。
 その意味で、現代では墓は死者への手向けであるという宗教的意味や家意識の確認という意味が薄れていっているということでもあるだろう。
 墓石の問題は、家族の家意識の変化、個人の個人主義の進展による必然的な所産であるといってもいい。
 かつて、仕事で一時期、本の著者のインタビューを担当していたことがある。その時、本を書く人にはさまざまな人がいるということを学んだ。
 その中でも、ユニークだったのは、「人斬り」という物騒なあだ名を若い時につけられていた元ヤクザの人で、晩年、罪滅ぼしのためにお墓の研究をライフワークにしていた。
 その人は、日本各地のヤクザやテキ屋のお墓を訪ねて調査し、統計を取り、その結果、その手の団体・組織の盛衰は、自分たちのルーツ、家系である祖先の墓を大切しているかどうか、ということに尽きると断言していた。
 結論としては、お墓を大切にしている団体・組織は繁栄し、大切にしないで、荒れ果てたままにしている組織・団体は絶家になっていたり滅んでいるというものだった。
 その時の著者の真剣な表情を今でもよく覚えている。
 それが正しいかどうかはわからないが、日本の墓石の廃棄などを聞くにつけ、今後の日本全体の先行きが少しに気になったのは確かである。


 (フリーライター・福嶋由紀夫)


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