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『二十一世紀の朝鮮通信使 海路をゆく 対馬から大坂』 (5)上関


(5)上関-お宝「朝鮮通信使船団上関来航図」あり

 鳩子の湯、鳩子のてんぷら…かつてNHK朝ドラの人気番組『鳩子の海』の舞台にもなった島だからであろう、「鳩子」の看板が目に付く。ここ上関(山口県熊毛郡)は、瀬戸内海の要衝、村上水軍が拠点とした島である。そこに江戸時代、大坂をめざす通信使船が往路は必ず寄港した。それがために、萩藩、岩国馬は接待に万全を期した。
 その様子は、上関の御茶屋や街並みを描いた岩国徴古館所蔵の『上関御茶屋仕構之図』、それと作者と製作年未詳の古図を見るとよくわかる。1748年、通信使の画家・李聖麟(イソンリン)が船上から描いた上関鳥瞰図(正式には『槎路勝区図画集』)もある。
 通信使上陸用の唐人桟橋である唐人橋、航海の無事を祈る神社、接待に当たる役人の健康を管理する小泉家まであてている。通信使の客館となる御茶屋の造りには気を使ったと思う。上関御茶屋跡の説明板にこうある。
 「『節約令』のおりにも通信使を厚く接待し、幕府より賞賛の言葉をたまわった。御茶屋跡は(中略)三千坪におよぶ」
 官職に合わせて整備された宿泊所。常設のものが大半だが、一時的に建てて壊すものもあった。将軍献上品の鷹や、江戸で曲芸を披露するための馬まで、朝鮮から舟で運んだが、その世話小屋が、上官の宿泊する御茶屋の下に建てられている。
 離島。水の確保も切実である。御茶屋のそばに井戸を確保するのは常識として、万一に備え、水船も本土から走らせる。上関では、その数75隻にのぼったという。通信使は先を急ぐ。 海路で大坂を目指し、さらに陸路で江戸まで行く。風波で行く手を阻まれない限り、先を急ぐ。

 上関で、長い滞在は4日から5日ぐらい。復路、帰国を急ぐ通信使は、寄港先に上陸せずに通過したり、寄港しても沖に停泊して、燃料や食糧を要求するケースが往々にしてある。その準備も怠ることはできない。
 町のお宝「朝鮮通信使船団上関来航図」を所蔵する超専寺は、古くは海岸近いにあったが、現在ではそれより内陸部にある。火事で焼け、再建されたようである。山門の手前に秀吉の俳句を刻む石碑が立つ。「常盆や石仏らも踊堂」。この俳句を朝鮮侵略の拠点、肥前・名護屋城に向かう途中、ここに立ち寄り、詠んでいる。超専寺は萩藩主名代の宿所。平和の使節を迎える陣頭指揮をとる家老の本陣である。歴史の光と影をあわせもつかのような寺である。
 阿弥陀寺の下に、遊郭があったと聞き、これは、港まちに共通した特徴だろうと思う。玄界灘の壱岐、瀬戸内の牛窓でも、その話を聞いた。諸国の商船が入り、漁船が入る。閉ざされた船から出た彼らは、遊郭で解放感を味わったのだろうか。
 阿弥陀寺に上がり、斜面を東行して、御番所(旧上関番所)へ行った。通信使が来ると市中見回りを役目とする役人が詰めた建物である。そのそばに、「青泉申秘書」の漢詩と、その解説書きが石碑に刻まれている。作者は、1719年来日した通信使・製述官、申維翰。宿舎を訪れる日本の儒学者たちとの交歓の思いを綴っている。

 上関には、能島水軍村上義顕の居城、上関城がある。巨岩が頂にそそり立つ上関城跡。航行する船から通行税を徴収するには、海峡を見渡せるこの高台はいい。秀吉の海賊禁止令まで、水軍の攻防は続く。遠くの山々が望める。「向こうの平生町には百済部(くたなべ)神社があります」。案内してくれた安田和幸さん、井上美登里さんの話を聞いて、朝鮮渡来人の存在を感じる。百済滅亡で、遺民が渡って来たからではないか。

【ユネスコ世界の記憶】
・朝鮮通信使船団上関来航図=所蔵:超専寺 上関町教育委員会寄託

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【転載】『二十一世紀の朝鮮通信使 海路をゆく 対馬から大坂』(朝鮮通信使と共に 福岡の会 編)  

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