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黄七福自叙伝「学園浸透スパイ団事件のこと」/「万景峰号寄港に反対したこと」


 

黄七福自叙伝47

「ああ祖国よ 我れ平壌で叫ぶ時 祖国は統一」

 

第4章 民団大阪本部の団長として

学園浸透スパイ団事件のこと

一九七五年に「学園浸透スパイ団事件」が発覚した。大阪の出身者が首謀者ということで、ほかの人物も近畿地区出身だったことから、その善処のすべてを私が交渉することになった。

どんな政治も、国民を殺すために政治はやっていないはずだ、という信念での交渉だった。

丁一権国会議長から手紙がきて、「団長がサンドイッチになって、気の毒だ。被疑者の親を見ていると可哀想でたまらない。在日同胞が本国にくると大きな壁があって大変だろうが、頑張ってくれ」と激励してくれた。

布施かどこかの学生だったが、極貧の家庭で育ち、高校生になると朝総連の幹部が訪ねてきた。

喫茶店でコーヒーを口にしながら、

「おまえ、大学へ行きたいやろ」

「行きたいです」

「朝鮮大学だったら、成績の優秀な者は学費もいらない」 と勧めた。

その子は家に帰って、親にそのことを話した。

すると親はびっくりして、

「おまえ、何を言っているのか」

と言って、その話を断った。

親は民団員だった。

その後、その子は釜山大学へ入学し、夏休みに帰省した。朝鮮大学への入学を勧めた朝総連の人がまたもや訪ねてきて、

「布施の喫茶店にいったら、白い服をきて、カバンをもった女の人が待っているから、会ってみよ」

と言った。

その指示に従い、喫茶店でその女の人に会うと、

「北朝鮮へ行ってみないか」

という話だった。

その子は生返事をして別れたが、内心びっくりした。夏休みが終わって、学園生活に戻ったある日、すごい熱が出て、病院へ運ばれた。

すると、うなされて、

「捕まって北へいかされる、捕まって北へいかされる」

と何回も言った。

それを中央情報部が知るところとなり、その子は、

「北へいったら待遇がいいといわれた」

などとすべてを自白して、学園浸透のスパイ網が摘発されたのだった。

東成の団員の場合は二人の子がスパイで捕まった。そうなるともう悲劇というほかなかった。乱数表が墓場から見つかったこともあった。

生野の民団支部の役員の子は優秀で、天王寺高校を卒業し、本国に留学して、スパイで捕まった。

私が嘆願すると、本国からの指示は「学生の家庭の実情を報告して出せ」ということだった。

雨の降る日だった。公にするわけにいかなかったから、運転手と私だけで回った。家を探すのが大変だった。

表札が全部通名だったから、隣近所に、「韓国人、朝鮮人はどこですか」と聞いて回り、やっと探し当てたこともあった。

済州道の人だったと思うが、親がいずれ祖国韓国に永住帰国するという考えで、子をソウル大学医学部へ行かせたが、スパイで捕まった。

その子の親が泣いて私に言った。

「なんとか、助けてやってくれ」

私は中央情報部長に直訴した。

「在日は日本で苦労している。日本に住みたくないから、本国に帰り、死にたいと願っている。だから、親が子どもをソウル大学の医学部へ行かせ、木浦で小さな開業医でもさせて、老後を送りたいと考えていた。が、子供がスパイで捕まった」

と切々と訴えた。

要するに、

「在日同胞は苦労して、幼稚園、小学校、中学校、高校と、十六年間、親がせっせと教育して、老後の夢を見ていたのだ。金があり余っての教育ではない。残ったのは結局、ブタ箱だ。その家庭は暗黒だ」

と声を振り絞って話していると、私自身の人生を語っているような気持になって、自然に涙が溢れてきた。

十六年間、ないカネ、あるカネを費やして、残ったのはブタ箱かと思うと、涙が出てきた。

このようなスパイ事件は、三八度線があるための悲劇だったから、祖国は統一しなければならないと痛感した。

分断のままでは、スパイ浸透を防ぐための法律が厳しく、その法律が非人道的だと云々するだけでは恨みを残すだけだし、法律が存在しているかぎりは、どうしようもない現実だった。

三八度線がなくなれば、そのような悲劇はなくなってしまうことだから、在日同胞社会の指導者は祖国の平和統一のために献身すべきだと考えざるを得ない。

 

万景峰号寄港に反対したこと

北朝鮮のスパイ工作船「万景峰号」が大阪港に寄港したため、民団大阪本部は一九七五年四月、大阪港に一万人を超す団員を動員して、「スパイ工作船万景峰号寄港反対抗議集会」を開いた。

朴正熙大統領を狙撃、陸英修女史を死に至らしめた犯人、文世光が万景峰号内で指令を受けていたことが明らかになっていたからだ。

「スパイ工作船万景峰号は即刻帰れ」「金日成は人殺しだ」「朝総連を紛砕しよう」と二時間にわたって空前絶後の激しい抗議活動を展開した。

私は宣伝カーの演壇から、 「万景峰号は北朝鮮スパイ工作船として、朝総連に金日成の秘密指令をさずけ、韓国を混乱におとしいれようとしている。このような北朝鮮の日本における対韓破懐策動を断じて許すことはできない。民団の全組織あげて、万景峰号を追い返そう」

と訴えた。

民団と朝総連とが一触即発の険悪なムードにあったことから、機動隊五百人余りが警備にあたった。

機動隊との小競り合いで青年や婦人らが負傷したので、私は、

「われわれは素手です。手荒なことはやめてください。警察の過剰警備です」

と何度もマイクで要請した。

この抗議集会に先立ち、大阪入管事務所を訪れ、稲葉法務大臣宛に「スパイ工作船万景峰号の入港規制ならびに乗組員の上陸を規制してほしい」との要請文を提出し、大阪港湾局長宛に万景峰号を入港させたことを強く非難する抗議文を手渡した。

また、飛行機をチャーターして、「万景峰号は金日成の秘密指令をうけ、朝総連に日本を対韓破壊基地にせよと指令している」と空からのデモンストレーションをかけた。搭乗したのは宋太抽だった。

翌七六年二月にも大阪港に現れたため、民団大阪本部は、大阪港の中央突堤入口前に五千人余を動員し、金日成の指令船万景峰号の大阪港寄港を強く糾弾した。

機動隊一千人が中央突堤入口を完全封鎖したため、抗議団と機動隊がしばしば衝突した。

抗議団は宣伝カーの車上から「文世光事件などを引き起こし、これを指令したのは、いま南側岸壁に接岸した万景峰号である。この万景峰号はスパイ工作船であり、暗殺指令船である」と訴えた。


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