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遊びの中の民族精神


 最近、将棋界や囲碁界で、若き天才と呼ばれるような棋士が続々と生まれている。
 将棋であれば、次々と記録を塗り替えている藤井聡太七段、囲碁では、10歳でプロ入りした仲邑菫さんなどが目立っている。
 スポーツの世界ならば、肉体的若さが大きな武器になり、記録を塗り替えることができるのはわかりやすい。肉体を鍛えていけば、そのポテンシャルが拡大され、限界を超えて記録を伸ばしていけるからだ。
 しかし、年を取った高齢者が自己の記録を更新していくことは、肉体的限界から不可能に近い。衰えていくというのが、自然な流れだろう。
 もちろん、毎日の鍛錬によって、その老化や衰退のスピードを少し遅くなるように食い止めることは可能だが、それも持続していくのは難しい。
 その意味で、基本的にスポーツ界における活躍は、若い年齢にある程度限定されることは間違いない。
 しかし、ここではたと考え込んでしまうのは、頭脳を中心としたゲームの将棋や囲碁に若手の天才が現れることだ。将棋にしても、囲碁にしても、相手との駆け引きや戦略、判断、推理、分析など、肉体よりもかなり頭脳を使わないとならない。
 過去の歴史を見ても、戦争などは、かなりな部分それまでの経験や積み重なった蓄積があった軍師の方が戦さの初心者よりも、かなり勝つ戦法を取ることができる。
 ふつうに考えれば、この戦争の駆け引きと通じるゲーム、将棋や囲碁も同じようなことが言えそうだと思ってしまうが、実際は将棋や囲碁も、若手がかなり活躍し、長年の経験を積み重ねたベテランを追い抜いてしまうケースがある。
 これは、将棋や囲碁もスポーツと同じように身体的な若さ、頭脳という細胞の若さが経験よりも勝負を決める決定的な要因になっているということだろうか。
 その点はまだよくわからないが、いずれにしても、新旧の世代交代は、どの分野でも共通していることだけは確かなようだ。
 さて、この将棋は、日本に到来したのはかなり古代に遡り、平安時代には奈良県の興福寺から古い駒が発掘されている。
 とはいえ、駒の数も現在とは違うようで、どのように遊ばれていたかはまだ明確にはなっていない。
 将棋自体のルーツは、古代のインドが発祥と言われていて、西に伝播したのがチェスとなり、東へ伝わったものが将棋になったと推測されている。
 将棋は、発祥の地・古代インドではチャトランガ、西洋ではチェス、中国ではシャンチー、韓国・北朝鮮ではチャンギと呼ばれている。
 伝来ルートは、日本将棋連盟のホームページによれば、インドから中国、朝鮮半島、そして、日本に伝来したと見られている。
 これほど将棋が次々と国を超えて伝わっていったのは、それだけ将棋というゲームが面白かったのだろうし、暇を潰すのに最適だったのだろう。
 やはり人間の本性には、一時流行ったコピー「くう、ねる、あそぶ」ではないが、衣食が足りれば精神的な慰安、遊びや娯楽を求める心があるといっていい。
 その日本に渡来した将棋だが、インドや中国、朝鮮半島とは基本的には類似しているが、厳然として変化した日本的なルールがある。
 それが「敗者復活」とも言うべき、一度相手から奪った駒はもう一度、自分の将兵の駒として復活させ使うことができる、というルールである。
 このルールは、日本では常識だが、世界では非常識になる。世界の将棋(チェスを含む)は、基本的に相手から奪った駒は二度と使うことができないのがルール。
 なので、日本の敗者復活のルールは、日本だけにしか通用しない特殊なものになる。なぜ、このような日本にだけ生まれたのか、という背景には、やはり勝負事であるから、日本における戦争の様式、ルールが関係しているのではないか、と指摘されている。
 要するに、戦争に敗れて捕虜になっても、そこで殺されるのではなく、もう一度、生かされて新たな主君に仕える機会を与えられるという日本人のもつメンタリティーが将棋にも採用されているのではないか、ということである。
 この「敗者復活」というルール、日本人の民族精神の表れでもあると考えれば、ゲームながらホッとするものがある。
 (フリーライター・福嶋由紀夫)


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