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黄七福自叙伝23


 

「ああ祖国よ 我れ平壌で叫ぶ時 祖国は統一」

 

第2章 祖国が解放されたこと

祖国が解放されたこと

一九四五年八月十五日、祖国が解放されて喜んだが、解放の日は、海軍の仕事をしていたから、表立ってそんなに喜ぶわけにはいかなかった。しかし、心の中で祖国の解放をかみ締めた。

鉄工所の経営ではそんなに儲からなかったが、陸軍省から借りた金は全部返したし、返し終えたところで終戦になった。

ところが、終戦で”軍需”が消え、仕事がなくなり、ほとんどの工場が戸を閉めた。私の工場も長らく休業に入った。

祖国へ帰ろうという気持も起きたが、カネのない者は国へ帰ってもたちまち生活に困ることは目に見えていたから、帰国の決心はつかなかった。祖国の荒廃は予想以上に激しかったようで、帰国した人の九九パーセントは生活に困窮するようになったようだった。

 

金天海が出獄したこと

一九四五年十月十日、政治犯は即時釈放すべしというGHQ(進駐軍司令部)の指令によって、徳田球一、志賀義雄らとともに金天海も出獄した。そのときの様子を、『在日の星 金天海』は次のように記す。

 

厚い扉が押し開けられると、十六人の男たちが出てきた。先頭に丸眼鏡の小男、大きく胸を張っている、黒木重徳だ。続いて、額のはげあがった人なつこい顔に満面の笑みを浮かべた男、 徳田球一だ。決然とした表情に微笑を含んだ男、志賀義雄だ。

三人にとっては十八年ぶりのシャバだ。みんな詰襟服に坊主頭だが、ひとり、長髪でぼうぼうに髭を伸ばした男がいる、山辺健太郎だ。集まっていた群衆から歓呼のどよめきが上がる。帽子が打ち振られ、旗と幟が大きく揺れ、万歳の声がこだまする。怒涛のようにうねる人波。それを縫って、男たちは解放された世界に歩み出した。

その波の中に、頭一つ抜け出た長身の男がめだった。しっかり背筋を伸ばしている。金天海だ。すっかり痩せてはいるが、元気そうであった。

一九四五年(昭和二十)十月十日、東京・府中―。政治犯が出獄したのだ。府中刑務所前には「歓迎出獄戦士万歳」と大書された幕を巻きつけた数台のトラック、そして四百人の歓迎の群衆が待っていた。その九割は朝鮮人だったと、この歓迎集会に参加した李泰永は証言している。これより前、豊多摩刑務所で、やはり「解放戦士出獄万歳」の人波に迎えられて出獄した政治犯・寺尾五郎も、熱狂した群衆は、だれもかれもが朝鮮人だった、と証言している。 (中略)

府中刑務所前では、徳田と志賀が挨拶に立ち、「我々の目標は、天皇制を打倒し、人民の総意に基づく人民共和国を樹立することにある」と宣言した。このときの徳田の短い演説は、「天皇制打倒」などという生やさしいものではなかった。「今度は我々が天皇をひっくくって裁く番だ。天皇の嬶なんぞは、だれかがいって姦ってしまえ」といった卑俗にして激越なものだったという。

朝鮮人たちは、躍りあがって拍手した。続いて金天海が演説した。金天海は徳田とは違って激情を努めて抑えた口調で、「日本帝国主義と軍閥の撲滅、天皇制の廃止、労働者農民の政府樹立、朝鮮の完全独立と民主政府の樹立」を訴えた。朝鮮人たちは、また盛んに拍手した。


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